キュレーター・インタビュー 02:Kanzan Gallery Curatorial Exchange 『言葉とイメージ』 Vol.3-写真は語る- インディペンデント・キュレーター菊田樹子氏
当展は、これまで、可視化されにくい歴史や複雑化した現代社会を表現する新たな可能性としての「写真とテキスト」(「Moving Plants」渡邊耕一)、写真を繋ぐための「言葉」のあり方(「ぼう然/じ若」松本美枝子)を展示で試みてきた<言葉とイメージ>*の第3弾です。
「言葉では言い表せない『何か』を写真なら語ることができる。であれば、写真に言い表せない『何か』を言葉は語ることができるのだろうか。そして、その『何か』とは何なのだろうか。写真とテキストが切り離せない関係性を持つ倉谷卓の「Pets」と村上賀子の「Untitled Origami」は、この問いに重要な示唆を与えてくれる。」(当展キュレーター 菊田樹子)
*<言葉とイメージ>
2016年5月から全4回の展示を通して、「言葉とイメージ」について考える展覧会シリーズ。マグリットやフーコーをはじめ、さまざまな試みや論考がすでに存在しているが、未だに多くの表現の可能性を残しているこのテーマに、現在の作家たちがどのように向き合っているのかを探る。
倉谷卓Takashi Kuraya
www.kurayatakashi.com
村上賀子Iwauko Murakami
www.murakamiiwauko.com
(キュレーター:菊田樹子)
当展は、2016年5月からスタートし、可視化されにくい歴史や複雑化した現代社会を表現する新たな可能性としての「写真とテキスト」(「Moving Plants」渡邊耕一)、写真を繋ぐための「言葉」のあり方(「ぼう然/じ若」松本美枝子)を展示という形で示してきた<言葉とイメージ>の第3弾となる。<言葉とイメージ>は、マグリットやフーコーをはじめ、さまざまな試みや論考がすでに存在しているが、未だに多くの表現の可能性を残しているこのテーマに、現在の作家たちがどのように向き合っているかを探ることを主旨としている。
今回は、倉谷卓の「Pets」と村上賀子の「Untitled Origami」を展示する。写真の世界で、「言葉では言い表せない『何か』を写真なら語ることができる」という信条は否定されにくい。それでは、作品にテキストを付随させる必要はないのだろうか。凝視すれば全てがわかるほど写真は饒舌なのだろうか。これらの疑問を起点に企画を始めた。デュアン・マイケルズ(Duan Michaels)やロバート・フランク(Robert Frank)、ボリス・ミハイルフ(Boris Mikhailov)——言葉とも仲の良い写真家たちは、『何か』が足りない写真を撮っている訳では決してなく、写真と言葉を組み合わせることでむしろお互いの自由を拡張し合っているかのようだ。今回は、このように写真と言葉が切っても切り離せない関係にある作品を展示したいと考えた。
倉谷は、被写体の状況によって変わる、不可思議で不確かな写真の価値と役割に惹かれるという。「Pets」は、行方不明になったペットを探す貼紙からの写真を複写している。これらは、主に家の中や共に出かけた場所などで撮影されており、恋人や家族の写真と同種のいわばプライベート写真である。しかし、被写体が不在になったことで、その写真は公に晒された。膨大なデータの一部としてパソコンやスマホの中で眠っていたかもしれないその写真は、今や飼い主にペットとの記憶を思い起こさせ、悲しみ、そして希望をも与える写真となった。また、その写真は、ペットの情報を伝達する大役をも担うことになったのである。キャプションは、貼紙に記された文章の中から最も印象的な一文を抜き出し、翻訳ソフトで英語に、それをさらに日本語に自動翻訳している。ペットは飼い主に撮影され、倉谷に再撮影されており、本来の姿からカメラという機械を通して2回ずれていることから、文章も2回にわたり翻訳機を通している。文章の「ずれ」に人はすぐに気づくが、写真の「ずれ」には気づきにくいことも、「言葉とイメージ」を考える上で興味深い現象である。
村上の「Untitled Origami」は、被写体に関係の深い動物を挙げてもらい、その動物との物語を紙に自筆で執筆してもらうことからスタートする。そして、物語が語られた紙をその動物の型に折り、被写体と共にポートレートとして撮影している。関係の深い動物はと問われ、すぐに思いつく人もいれば、記憶を探りようやくその動物に辿りつくという人もいるだろう。しかしいずれの場合も、心の中に漠然と存在していたパーソナルな思いや記憶が、自ら言語化することで形を与えられるのである。ポートレートを指して「被写体の(見えない)本質に迫っている」というような賛辞をよく目にする。そうした居心地の悪さをこの作品に感じないのは、撮影のプロセスに「言葉」を介在させ、見えない「何か」を丁寧に視覚化していく手法をこの作家が手に入れたからに違いない。
当展キュレーター 菊田樹子 Mikiko Kikuta/ Independent Curator
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Kanzan Curatorial Exchange 『言葉とイメージ』 Vol.3
写真は語る
倉谷卓 村上賀子
2017年1月13日 (金)-1月31日 (火)
EVENT : 1月28日 (土)
TALK : 17:00-
アイヴァン・ヴァルタニアン(編集者)× 倉谷卓(写真家)× 村上賀子(写真家)× 菊田樹子(当展キュレーター)
TALK定員25名/要予約 TEL=03-6240-9807 info@kanzan-g.jp
RECEPTION : 18:30-
一般財団法人日本写真アート協会 Kanzan gallery 東京都千代田区東神田1-3-4 KTビル2F
© 2016 Kanzan gallery
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