Kanzan Curatorial Exchange 「尺度の詩学」vol.3
黒田大祐「ハイパーゴースト・スカルプチャー」
2019年1月18日(金)- 2月17日(日)
12:00-19:30/日曜17:00まで/月曜定休/入場無料
TALK SESSION ① 「情報化する彫刻」+ レセプション
1月19日(土)17:30- 19:00(予約不要, 入場無料)
谷口暁彦(アーティスト)× 黒田大祐
進行:和田信太郎
RECEPTION : トーク終了後より
TALK SESSION ②「彫刻の正体」
1月27日(日)17:00- 18:30(予約不要, 入場無料)
小田原のどか(彫刻家)× 黒田大祐
進行:和田信太郎
TALK SESSION ③「東アジアと美術」
2月3日(日)17:00- 18:30(予約不要, 入場無料)
Jang-Chi(オル太)× 黒田大祐
進行:和田信太郎
企画:和田信太郎
施工+広報:コ本や honkbooks
助成:公益財団法人 テルモ生命科学芸術財団, 公益財団法人 日本文化藝術財団
協力:Gallery OUT of PLACE, ときわミュージアム, さっぽろ天神山アートスタジオ,
原都心創作空間TOTATOGA, 竹圍工作室, 本郷新記念札幌彫刻美術館
主催:Kanzan gallery
1930年代、東京美術学校彫刻科の建畠大夢(彫刻家, 1880-1942)の教室にはさまざまな国から彫刻家を志す若者が集っていました。留学生の多い時期でもあり、日本が帝国主義的な支配を拡大していった時代でもあります。建畠教室で学んだ学生たちはそれぞれの都合で母国に戻り、作家活動のかたわらで、高校や大学といった教育機関で美術教師としてその国の後進に影響を与えていったようです。
韓国の仁川(Incheon)にはマッカーサー像が建てられています。この作者の金景承(彫刻家, 1915-1992)は建畠教室で学んでいました。この金景承と同じ頃に学んでいた文錫五(彫刻家, 1908-1973)という人物は、朝鮮戦争後の北朝鮮で金日成像やスターリン像を手がけています。さらに建畠自身も1938年に伊藤博文像を制作し、現在においても国会議事堂の中に鎮座しています。
同じ時期ある教室で共に過ごした彫刻家たちが、自国の権力者の像を形づくっていた時代性も興味深いのですが、それ以上に彼らがその制作と同時に、近代芸術としての「彫刻」をそれぞれの国において、教育者として従事し伝えていったことに着目しています。「彫刻」は技術と美学をまるで伝言ゲームのように後進に受け継いでいったとも考えられます。
本展は「ハイパーゴースト・スカルプチャー」と題して、美術家の黒田大祐が彫刻家・建畠大夢の周辺とその教え子たちに焦点をあて、日本、中国、韓国、台湾といった東アジアを巡って制作したリサーチベースの展覧会です。
インタビューなどを行ない、東アジアに横たわる「彫刻」概念の様相と、彫刻教育について迫っていったリサーチを基に、制作活動として展開させ、映像作品を中心に構成しています。展覧会は、作品発表としての「ハイパーゴースト・スカルプチャー」(Kanzan Gallery)をメイン会場とし、リサーチを重点的に紹介するサテライト会場「不在の彫刻史2」(3331 Arts Chiyoda)を設けて、2つの会場で開催します。
(アーティスト・ステートメント)
建畠大夢(彫刻家, 1880-1942)の『おゆのつかれ』という彫刻作品を見たのは美術高校に通っていた頃です。作品が面白かったのは言うまでもありませんが、変な名前の彫刻家の作品だったのでとてもよく覚えています。その高校の中にはいくつか彼の作品があり、彼の作品に気を留めるようになっていきました。正直、私は高校生だったので「彫刻」というものをよく理解していませんでした。ですから、この頃に見た「気になるもの」は何でも意識的に自分の表現に取り入れていきました。2017年、私は韓国の仁川(Incheon)の小高い丘の上でマッカーサーの銅像を見ることになります。なぜかその銅像の造形が気になり調べてみると、建畠大夢の教え子の金景承(Kim Kyung-Seung, 彫刻家, 1915-1992)の作品であることがわかります。しばらく忘れていた名前に重なるように高校生の頃の記憶が蘇りました。私は妙な感覚にとらわれて、建畠が教鞭を取っていた時代とその教え子をめぐって調べるようになります。すぐに彼が私の高校の卒業生であること、私自身が彼の教え子の教え子の教え子に位置付けられることが解りました。
それから妙な縁に導かれるように、建畠の教え子、その教え子の教え子たちが気になり始め、彼らが何を「彫刻」と考え、どう生きたのかを調べるようになりました。日本、中国、韓国、台湾にわたる調査は、自分がほんの一瞬でも考え、信じてきた「彫刻」というものの正体を探る旅であり、つまるところ「彫刻とは何か」を考える旅でもありました。おそらく彫刻を学んだことがある人の誰もが「彫刻とは何か」そんな問いをめぐらせたのではないかと思います。学んだことがなくても、「彫刻」といわれるものを見て、「彫刻って何なの?」と思ったことがある人も大勢いることでしょう。私もよく考えました。しかし、学び考えたことと表現することは一致するわけではなく、いつの間にか「彫刻」について考えることはなくなっていき、作品制作とは別として捉えるようになりました。
ここに来て、再び「彫刻とは何か」と寒気のするような「問い」に立ち戻ることになったのは、呪いとしか言いようのない理不尽さと、解らなさがそこには付きまといます。建畠大夢のあの可愛い「彫刻」をみた高校生の頃に呪いが始まっていたのかもしれません。そうして呪われた私は、自分の「彫刻」と、作品制作との間にあるギャップを言葉にすることが出来ず、2つの事柄を別のものとして捉えることでやり過ごして来たのだと思います。ところで、この「呪い」は私だけのものなのかどうか。リサーチを終えて、私はほんの少しだけ、このことについて語ることができます。心当たりのある人は見に来てください。
「尺度の詩学」
都市や社会を通じて問題意識を見つけ、それを作品化する表現行為が少なくないなかで、あらためて尺度(スケール)という観点から思考論理や表現手法を意識的に問い直してみる。そのことによって物事の肌理を際立たせることができるのではないだろうか。表現を投げかけるときに、意図的に尺度を割り当ててみるだけで、伝わり方も(その残余も)別様のものになり変わる。尺度の切り替えによって、現象は複雑にも単純にもなるゆえに、問題意識を見出すそのアサムプション(前提)から再考してみようと本シリーズを企画しました。
リサーチ手法として年表をつくり「平成」「地下鉄サリン事件」について写真をメディウムとして再考する土屋紳一。見ていることの事実や実在している確かさを問い直そうと独自の手法を開発する美術家の長田雛子。彫刻教育から東アジアの歴史に迫り「不在の彫刻史」を体現化しようとする彫刻家の黒田大祐。「尺度の詩学」という企画シリーズのもとで、3名の作家が個展形式によって映像メディアで用いる新作を発表します。
【サテライト会場:不在の彫刻史2】
会期:2019年1月24日[木]-2月2日[土]
会場:3331 Arts Chiyoda, B104スタジオ
住所:東京都千代田区外神田6丁目11-14
開催時間:12:00-19:00
休廊日:なし
黒田大祐 / Daisuke Kuroda
1982年、京都府福知山市生まれ。美術家。2013年、広島市立大学大学院芸術学研究科総合造形芸術専攻(彫刻領域) 修了。橋本平八「石に就て」の研究で博士号取得。広島在住。チームやめよう主宰。
地形や気象などの物理的な環境と人間の作り出す歴史や物語の関係性について作品を制作している。近年は「不在の彫刻史」と題し、彫刻にまつわる物語について調査し作品を制作している。主な展覧会に、「対馬アートファンタジア」(長崎、対馬。2011年より毎年参加)、個展「不在の彫刻史」(トーキョーアーツアンドスペース本郷, 2016)「瀬戸内国際芸術祭 2016」( 小豆島旧三都小学校, 2016)、「東アジア文化都市奈良2016 古都祝奈良 ならまちアートプロジェクト」( 東城戸町会所, 2016)、「ヨコハマトリエンナーレ連携企画 BankART Life4 -東アジアの夢-」(BankART Studio NYK, 2014)等がある。
https://sites.google.com/view/daisuke-kuroda/home
谷口暁彦 / Akihiko Taniguchi
1983年生まれ。アーティスト。多摩美術大学情報デザイン学科メディア芸術コース専任講師。メディア・アート、ネット・アート、映像、彫刻など、さまざまな形態で作品を発表している。主な展覧会に「[インターネット アート これから]—ポスト・インターネットのリアリティ」(ICC, 2012)、「SeMA Biennale Mediacity Seoul 2016」(ソウル市立美術館, 2016)、個展に「滲み出る板」(GALLERY MIDORI.SO, 東京, 2015)、「超・いま・ここ」(CALM & PUNK GALLERY, 東京, 2017)など。
小田原のどか / Nodoka Odawara
1985年宮城県生まれ、東京在住。彫刻家。彫刻・銅像・記念碑研究。博士(芸術学)。版元運営。最近の論文に「長崎・爆心地の矢印:矢形標柱はなにを示したか」(『セミオトポス12』所収)。近著に『彫刻 SCULPTURE1』、『彫刻の問題』(白川昌生、金井直との共著)、共編に『原爆後の七〇年:長崎の記憶と記録を掘り起こす』。主な受賞に、アロットメントトラベルアワード2018大賞、群馬青年ビエンナーレ2015優秀賞、ゲンビどこでも公募2015池田修賞、第12回岡本太郎現代芸術賞入選。
チャンチ / Jang-Chi
2009年に表現集団「オル太」を結成。2010年、多摩美術大学絵画学科油画専攻卒業。オル太のメンバーと共に身体とコレクティブに基づく活動を展開。これまで参加した主な展覧会に「内臓感覚-遠クテ近イ生ノ声」(金沢21世紀美術館)や「Hybridizing Earth, Discussing Multitude」(釜山ビエンナーレ2016)など。近年では、日韓で同時代の伝承や伝達の在り方を通じてボードゲームを制作し、プレイする「TRANSMISSION PANG PANG」や笑いから都市の機能を考察するプロジェクト「スタンドプレー」を展開する。
和田信太郎 / Shintaro Wada
1984年宮城県生まれ。ドキュメント・ディレクター。表現行為としてのドキュメンテーションの在り方をめぐって、映像のみならず展覧会企画や書籍制作を手がける。最近の主な仕事として、「磯崎新 12×5=60」ドキュメント撮影(ワタリウム美術館, 2014)、「藤木淳 Primitive Order」企画構成(第8回恵比寿映像祭, 2016)、展覧会シリーズ「残存のインタラクション」企画(Kanzan Gallery, 2017-18)、「ワーグナー・プロジェクト」メディア・ディレクター(神奈川芸術劇場KAAT, 2017)。2012年東京藝術大学大学院映像研究科メディア映像専攻修了。現在、東京藝術大学大学院映像研究科特任講師、株式会社thoasa(コ本や honkbooks 企画・映像制作・書籍出版)ディレクター。
コ本やhonkbooks
2016年より活動するメディア・プロダクション。映像や書籍の制作、展覧会やプロジェクトを企画し、自ら運営する本屋(東京都北区王子)を拠点に展開している。青柳菜摘/だつお(アーティスト、1990年生まれ)、清水玄(ブック・ディレクター、1984年生まれ)、和田信太郎(ドキュメント・ディレクター、1984年生まれ)主宰。3人ともに東京藝術大学大学院映像研究科出身。最近の活動に展覧会シリーズ「残存のインタラクション」企画(Kanzan gallery、2017)、「ワーグナー・プロジェクト」メディア・ディレクション(神奈川芸術劇場KAAT、2017)、「新しい洞窟-もうひとつの岐阜おおがきビエンナーレ2017」ディレクション(2017)など。別名thoasa。
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