Exhibitions
#on view / kanzan gallery
Planet Fukushima|菅野純 Jun Kanno
2023.6.14 Sat. - 7.2 Sun.
GALLERY TALK|6月24日 [土]16:00 - |予約不要/入場無料
菅野純(写真家)× 岩根愛(写真家)
概要
写真集の発行を記念して、菅野純の個展「Planet Fukushima」を開催します。震災以降の福島をテーマとした「Planet Fukushima」展は、今まで2012年のせんだいメディアテークを始まりとし、2017年のNIKONサロン(42回 伊奈信男賞)、2021年 のソニーイメージングギャラリーと回を重ねてきました。今回は、4度目の展示になります。震災後の風景の移り変わりとともに新たな視点が加わり、それを回ごとに再編成してきました。今回は写真集に準じて震災以前の2002年から2023年までの作品50点を一挙に展示します。
–
はじまり
福島第一原子力発電所の事故により福島の各所に『ホットスポット』と呼ばれる空間放射線量が非常に高い地点ができました。水素爆発で放出された放射能物質が『放射能雲(プルーム)』と呼ばれる状態となって発電所の北西方向(内陸部)に流れ、その時雨が降ったことが被害を大きくした原因です。その局地的な汚染範囲は広範囲に散在し、特に私の実家のある伊達市(福島第一原子力発電所から北西に約60km距離)では、完全な避難指示区域にはならないまでも特定避難勧奨地点と呼ばれる場所(事故発生後1年間の積算線量が20mSvを超えると推定される)が2011年11月までに117箇所設定され、当時、2012年4月までに自主避難も含め1003人(387世帯)が市外に避難しました。
私が震災後初めて実家に戻ったのは2011年の5月の初めで、その時はまだ事態の深刻さをうまく呑み込めずにいたように思います。放射能といえば戦争や爆弾といったもの以外で意識したことはなかったし、その知識も曖昧で、まして臭いもなく目にも見えないという物質の特徴は想像してもなかなか理解できなかったのです。
(近景)(中景)(遠景)(接景)、そして(Fat Fish)について
最初の帰省から数日後、生産が追いつかず長らく待ちわびていた線量計がやっと手元に届くとともに事態の深刻さを身を以て味わうことになります。やがて私の視界にはなんとも奇妙な変化が生じはじめました。(近景)(中景)(遠景)という三つの層が形成されたのです。それは三つの違う次元といっていいかもしれません。たとえば目の前に人がいて遠くに山があるとします。その両者はかつて同じ空間に一緒に、そして同時に存在していたはずです。しかしあの事故をきっかけに手前の人(近景)と遠くの山(遠景)の間には放射能という異物(中景)が入り込み、両者は分断されまったく別の次元と化してしまったのです。いつからか人(近景)とカメラのレンズの間にある(接景)という層も新たらしく加わり、いってみればフォトショップのレイヤーのような層の重なりで目の前の空間を意識するようになったのです。ピントがずれた写真が多いのは(近景)(中景)(遠景)、あるいは(接景)という空間そのものに焦点を当てているためです。
そしてあるとき、広大な放射性廃棄物の仮置き場に遭遇します。山の上から眺めるとフレコンバッグの袋の一つひとつがまるで何かの鱗みたいで、さらによく見るとフェンスで仕切られた仮置き場の外形は魚の形に似ていました。まるで原発事故により海側から雲に乗って流れてきた魚のようで、当時の福島にはとても象徴的な場所ように感じられました。それまでは自分が地面に立った状態でそれぞれが分断・独立した(近景)(中景)(遠景)(接景)というレイヤーの重なりで空間を捉えていましたが、その時以来、上からの視点が新たに加わり、その場所を「Fat Fish」と名付けて、定期的に撮影をすることにしたのです。とはいっても地上で感じていた平面的なレイヤーの重なりを上から俯瞰(網羅)することにより、そこで複合的な次元の感覚が得られたかというとそうではありません。あくまで(近景)(中景)(遠景)(接景)と同じく、地面に張り付くどこにも属さない薄っぺらい空間でしかなかっのです。
時の流れ
この10年、たくさんの人々に出会って思ったことは、人によって時の感覚が違うというということです。印象的だったのが、実家の近所に住むある女性の話で、震災の二年前に亡くなったはずの夫の死が震災の時期と重なっていたことです。衝撃的な夫の死の記憶と騒然とした地震の記憶がと一緒になり、女性の中であらたな物語ができあがっていました。
速かったり遅かったり、切れ切れだったり、あるいは一挙に溯行して震災以前に戻っていたり。たとえば津波の被害が可視化できる沿岸部と放射能被害が大きい内陸部というように、その種類や規模によっても人々の時間の感覚は異なってきますし、大人と子供の差も大きいです。また就いている仕事によっても違うでしょう。もちろんそれは福島以外のどの地域の人々にとっても時の概念、そして震災に対する想いは個々に違うのは当然のことです。ただ福島という空間において、その目に見えない異物の存在は、人間が持つ本来的な時間に対する感覚に何らかの変化を(一時的にでも)及ぼしたことは間違いないような気がします。
中景を境とし、そこに付随するいくつものレイヤー。そして偶然出会った「Fat Fish」という上からの新たな空間。それらは分断され孤立したまま、なんの規則性も持たずそれぞれがばらばらに時を刻んでいるように私には思えるのです。
「Fat Fish」と「Little Fish」
写真集は「Fat Fish」と「Little Fish」の二部構成になっています。本編である「Fat Fish」では福島の地における複雑な時間の流れと空間の広がりを表現しています。また「Fat Fish」で撮影されたそれぞれの場所では、線量を計測するガイガーカウンターの写真を(日付入りのコンパクトカメラで)別に撮っており、それが「Little Fish」のパートで展開されています。それは本編のバラバラな時間の流れを追う唯一の手掛かりとなりえるものです。
両パートは観音開きになり、広げると4枚の写真を横一列(計106cm)で同時に見ることができます。「Little Fish」パートの日付と数値が意味するものとはいったい何なのでしょう? ともあれ、それらの数字はただの記録にはとどまりません。その4枚の写真を前にページを捲っていると、写真という平面がやがて重層的な奥行きのある新たな空間の広がりへと転じていることに気がつきます。
「Fat Fish」とはそもそも、定点観測をしている広大な放射性廃棄物の仮置き場の外形が魚の形をしていたために、私自身が名付けものです。また別の意味があり、第二次世界大戦時のマンハッタン計画で広島と長崎に投下された原爆「Little Boy」と「Fat Man」にもなぞらえています
–
#on view / Kanzan galleryは、写真と映像に携わる若手アーティストを「展示」という形で支援してきたKanzan galleryの新しいプログラムです。写真集の発行記念展や巡回展、または展示の実験の場として、写真家が主導する展示企画をサポートします。当展は、第7回目となります。
–
会場にて写真集「Planet Fukushima」を販売致します。
写真集『PlanetFukushima』
著者:菅野純
発行 :赤々舎
ページ数:総304ページ(2シリーズ)
サイズ:B5横本 左右両側スイス装、コデックス製本
定価:7,000円+税
–
artscape 2023年06月15日号に、 写真評論家・飯沢耕太郎氏による写真集 菅野純『Planet Fukushima』のレビューが掲載されています。
>>【artscape 2023年06月15日号(artscapeレビュー)】菅野純『Planet Fukushima』|飯沢耕太郎
Profile
菅野 純 / Kanno Jun
写真家 福島生まれ アメリカで映像を学び、帰国後ポートレート、ランドスケープを中心に活動。2018年より東京から福島に拠点を移し、震災以降の福島の自然と環境をテーマに作品制作を行っている。また動物と人間の関係性を扱った作品があり、その場合アーティスト名は「菅野ぱんだ」を使用している。
主な個展
「 Planet Fukushima 2021」ソニーイメージングギャラリー 銀座(2021)
「菅野ぱんだ写真展」 秋田雄勝郡会議事堂記念館(2018)*
「 Planet Fukushima」Nikon Salon東京・大阪巡回(2017)*
「南米旅行」ギャラリーDEPOT(2004)*
「1/41」「ザ・南米」スーパーデラックス(2003)*
主なグループ展
「Canon写真新世紀展 仙台」 せんだいメディアテーク(2012)*
「福島の新世代2001 SEVEN ROOMS」福島県立美術館 (2001)
「’99 プライベートルームII-新世代の写真表現」水戸芸術館 (1999)
主な受賞歴
第42回 伊奈信男賞(2017)*
第13回 Canon写真新世紀 優秀賞(荒木経惟選)(1996)
主な写真集
「熊猫的時間」ハガツサブックス(2020)*
「The Circle」自費出版(2017)*
「南米旅行」リトル・モア(2004)*
「1/41 同級生を巡る旅」情報センター出版局(2003)*
以上*印のあるものは「菅野ぱんだ」名義になります
Artist Kanno Jun was born in Fukushima, studied film production in the US, and after returning to Japan worked primarily in the portrait and landscape genres. In 2018 she relocated from Tokyo to Fukushima, and has been producing works dealing with the natural scenery and environment of Fukushima since the 2011 earthquake and tsunami. Some of her works have the theme of relationships between animals and people, and she presents these works under the name “Kanno Panda”.
Awards include the 13th New Cosmos of Photography Prize (selected by Araki Nobuyoshi) (1996) and the 42nd Ina Nobuo Award (2017). Major photography exhibitions include Planet Fukushima (Nikon Salon, 2017), Fukushima’s New Generation 2001: Seven Rooms (group exhibition, the Fukushima Prefectural Museum of Art, 2001), and Private Room II – Photographs by a New Generation of Women in Japan (group exhibition, Art Tower Mito, 1999). Her many publications include The Circle (self-published, 2017) and Traveling Through South America (Little More, 2004).
HP: https://www.panda-kanno.com/
Instagram: https://www.instagram.com/panda_kann
Twitter: https://twitter.com/@panda_kanno