Kanzan Curatorial Exchange「写真/空間 vol.1」
Getting Lost
Krista Mölder
2017年4月14日 (金)-5月7日(日)
OPENING: 4月15日(土)
TALK :17:00-
Krista Mölder (写真家)× 菊田樹子(当展キュレーター)
RECEPTION:18:30-
キュレーター:菊田樹子
協力:駐日エストニア共和国大使館
Krista Mölder クリスタ・モルダー
タリン(エストニア)在住
Tartu Art College、University of WestminsterとEstonian Academy of Artsのマスターコースで写真・アートを学ぶ。空間と人の関係性を、写真や映像で問う作品を制作している。エストニアの気鋭の現代アーティストに与えられるKöler Prize 2016 にノミネート。また今年2月まで開催された、エストニア国立美術館(KUMU)でのグループ展「Between the Archive and Architecture」でも高い評価を得た。
「写真/空間」
全3回の展示を通して、写真の内と外に立ち現れる空間について考える展覧会シリーズ。
Space is a doubt: I need to keep marking it, defining it; it is never mine, it has never been given to me, I must conquer it.”
(G. Perec)
空間とは疑うことである。つまり、私はそれに痕跡を残し続け、定義し続ける必要がある。それは、私のものには決してならないし、私に与えられるものではない。私はそれを征服しなくてはならないのである。ジョルジュ・ペレック
これは、クリスタ・モルダー(Krista Mölder)のサイトのトップページに掲載されている、フランスの小説家ジョルジュ・ペレックによる「さまざまな空間」からの引用である。このテキストからもわかるように、彼女の興味は一貫して「空間」に向けられ、「写真*」というメディアでの制作を続けてきた。「Landmarks. The use of empty toothpaste tube」(2004)のような初期作品においては、「空間」も「写真」も主観的な感情や思い出と結びつき、詩的な表現を実現する受け皿として機能していた。「PIND/LIND (In between internal & external; 2D ↔ 3D)」(2009)は、鳥(とは言え、その羽や折り鶴)のイメージから成るシリーズであり、ここでの「空間」と「写真」は、平面と立体の感覚的な差異を検証するための必要条件だった。
今回の展示では2012年からの3シリーズをリミックスした。それは、2011年の日本での滞在制作を経て制作姿勢に変化が生じたため(「当たり前だと思っていることを手放すことを学んだ」「コンセプトを立ててそれに従って制作することを止めた」**と本人は語っている)。また、シリーズを混在させることで「空間」という共通点がむしろ見えにくくしてきた「何か」が立ち現れるのではないかという期待からである。シリーズ毎に見ていきたい。「Non Places」からの作品1, 2, 6の被写体は、壁に描かれた絵、森の中に佇むカメラ、有名ギャラリーの内部である(どれも撮影地はあえて記されない)。「見ること」に関する作品であることは朧げながら想像できるが、このカメラは何を写そうとしているのか?森の風景、写真を見ている鑑賞者…または、そのカメラを撮影している写真家自身なのかもしれない。「Being Present」(作品3)はモルダーの少し不思議な実体験が元となっているが、それを匂わせるヒントは何もない。「YOU/BLUE」の作品7では、白い空間で2人の女性が淡々と闘い続けている。どちらかが勝つことも負けることも、クライマックスもない。ここでは、タイトルが小さなヒントを与えている。BLUEはエストニア語で「あなた」という意味である。「あなたとあなた」「あなた、または、あなた」。ならば、彼女が闘っているのは自分自身なのだろうか?
会場をひと周りした後、鑑賞者は展覧会のタイトル通り「Getting Lost(迷う)」という感覚をおぼえるだろう。あえて「迷わせる」よう難解にした訳ではない。しかし、モルダーの作品の根底にあるのは「自分の存在とは何か」という正解のない問いの思索であり、彼女が示そうとしているのは、「写真」が直接的なイメージによる「記録」でも、単なる感情の発露でもなく、暗喩や寓意に満ちた視覚言語であるということを考えた時、それは必然とも言える。木と木がぶつかり合うリズムの中で、視覚だけでなく、五感を研ぎ澄ませ、思考を深める。それは、自分と対峙する、まるで座禅のような行為だと言えるだろうし、寓意を読み解くには直感と想像力が試されることもまた思い出される。「存在」という不確かな「何か」。それはモルダーの手で「空間」と「写真」と結びつくことで、ふと私たちの前に姿を現す。 当展キュレーター 菊田樹子
注* 近年、モルダーはヴィデオ作品の制作も行っているが、モルダーはあくまで「写真」の延長上の「動画」として捉えている。
注*、注** 共に、2017年1月11日 Laura Brokaneのインタビューより
キュレーター・インタビュー 05:インディペンデント・キュレーター 菊田樹子氏 Kanzan Curatorial Exchange「写真/空間 vol.1」
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キュレーター・インタビュー 05:インディペンデント・キュレーター 菊田樹子氏 Kanzan Curatorial Exchange「写真/空間 vol.1」
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