©︎ Mika Kitamura
Kanzan Curatorial Exchange「生き延び」vol.2
revenant
喜多村みか
キュレーター:小池浩央
2023年4月21日[金]- 5月14日[日]
[火曜-土曜]12:00-19:30|[日曜]12:00-17:00|月曜定休/入場無料
[EVENT]
①GALLERY TALK|5月13日[土]16:00 - 17:30|予約不要/入場無料
喜多村みか(写真家) × 小池浩央(本展キュレーター)
トークイベント中でも、作品はご覧になれます。
どうぞお気軽にお入りください。*終了時間は前後する可能性があります。ご了承ください。
[プロフィール]
小池浩央 Koike Hirohisa
武蔵野美術大学大学院映像研究科修了後、フランス・ナント美術大学にてアーティスト・リサーチャー、エストニア芸術大学にて講師。現在はエストニア・タリン大学大学院博士課程在籍中。専門は写真論・フランス現代思想。研究テーマは、ジャック・デリダの概念的遺産に基づく写真における遅延・喪・贈与についての考察。主な論文に「Lein ja fotograafia: Jacques Derrida fototeooria」(Etüüde nüüdiskultuurist; 9, 2021)、「The noeme of photography: the paradigmatic shift in the photographic theory of Roland Barthes」(Kunstiteaduslikke Uurimusi / Studies on art and architecture, 28 (3-4), 7-26., 2019)。
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②CLOSING PERFORMANCE|5月14日[日]14:30 start|予約不要/入場無料
出演:荒木 真(サクソフォン奏者・コンポーザー)
[プロフィール]
荒木 真 Araki Shin
これまでにアルバム“PRAYER”、“A SONG BOOK”等リリース。あいみょん、伊藤園子、Exile、Chemistry、坂本美雨、Sawako、関口シンゴ、東京フィルハーモニー交響楽団等に、録音演奏やライブ、作編曲で参加。ファッション・ショー、舞踏、写真、陶芸とのコラボレーション、リードオルガンのアルバムプロデュースなど、ジャンルを超えた活動を行う。近年はサクソフォンにエフェクターを用いたアプローチが国際評価を受け、日本人で初めてベルギーのメーカー“Drolo FX”公式アーティストとなる。
公式ウェブサイト
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artscape 2023年06月15日号に、 写真評論家・飯沢耕太郎氏による喜多村みか「revenant」展
のレビューが掲載されています。
>>【artscape 2023年06月15日号(artscapeレビュー)】喜多村みか「revenant」|飯沢耕太郎
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Kanzan Curatorial Exchange「生き延び」
外部に開かれた生としての生き延びについて考える展覧会シリーズ
喜多村みか「revenant」展によせて
フランスの哲学者ジャック・デリダの思想において「生き延び」という言葉が指し示すのは、ただ単に「この私」の体が長らく生き残ることでも、また「この私」が作りだしたものがそのまま無傷で残るということでもない。「私」とはそもそも私自身のものではない何ものかによって汚染=混淆され続けるものであり、作品も同様にそれぞれの時代において解釈され続けるなかで、誤解され、歪曲されることを通じて永らえる。つまり生は「他者」に晒されることで、時間のなかで絶えず変革していく運動性を獲得することで、生き延びとなる。デリダは生前最後のインタビューの中で、彼の仕事の手助けとなった概念、とりわけ痕跡や亡霊の概念は、構造的で厳密に根源的な次元としての「生き延びること」に結びついていたと述べている。 1
今回展示される「revenant」は、2013年に発表された初の写真集『Einmal ist Keinmal』からちょうど10年を経た今年、喜多村が写真で捉えようとしてきたものをこれまでの活動を振り返りつつ複数の視点から再考し、これからに向けた新たな出発点となるようなものを目指している。個展のタイトル「revenant」は第一義的には「亡霊」の意味であるが、この語はフランス語の「revenir(再来=回帰すること)」の現在分詞形に由来しており、「亡霊」と「回帰するもの」の両方の意味を備えている。異なる時期に異なる場所で撮影された、いわば「回帰するもの」としての写真たちは、再解釈され、未発表の作品とともに提示されることで新たな生を獲得する。
178年に開創と伝えられる寺院の住職の娘として生まれた喜多村は、われわれの生と死者の霊(revenants)との関係を経験的に理解しているが、もちろんすべてを仏教に繋げて解釈しているわけではない。そうではなく、あらゆる「信」の形態において、現在の私たちの手持ちの計測機器では計れないことが存在するということをただ認めているだけなのである。それゆえ喜多村は、写真とは「よくわからないものに対して祈るようなようなもの」であると述べる。祈りとはすでに存在するものとの調和を図るものではなく、「いま・ここ」に存在しないもののために嘆願することである。もはや生きていない亡霊たち(revenants)だけでなく、まだ生きておらずこれから到来するものたち(arrivants、フランス語の「arriver(到着=到来する)」の現在分詞形に由来)の個別性を、自らのうちに統合してしまうことなく、それぞれ特異なものとして敬意を払いつつ認めることが、責任へと繋がっていく。責任は英語ではresponsibilityであるが、それはresponse(応答)するability(能力/〈・・・することが〉できること)のことであり、つまり他者に対する応答能力=応答可能性こそが問われているのである。まったき他者を理解するには、既存の、手持ちの解釈コードでは対応できず、それ自体を発明し直す必要がある。他者とは、安全地帯に住まう私の視点から遠くに見えるものたちのことではなく、私に向かってやってきて、しかも私がすでに持っている能力(ability)では応答(response)することのできないものたちのことである。そこではそれまでの規則は解体され、そういった規則なしで個々の事例に判断を下していかねばならない。そうして現れる他者は「私」に侵入し、「私」を組みかえ、「私」は雑種になる。そして、そうであることで、またそれを続けていくことで、未来は開かれたものになる。
他者はいつやって来るかわからず、あるいはやって来ないかもしれず、もうすでにやって来ているかもしれない。そもそも、われわれはこの他者を見ることはできない。ゆえに他者を「見る」こととは、本当は他者に「見られる」ことなのである。喜多村の写真家としての賭金は、他者に見られた瞬間の感覚を頼りにそちらに向けてシャッターを切ることこそにあり、その結果としてフィルムに残されたものはむしろ二義的なものであるとも言える。あらかじめ思い浮かべたイメージを具現化しているわけではない以上、被写体は統一されてはおらず、絶対的な撮影距離も異なっている。しかし、他者が写真家を眼差した瞬間そのものに反応しているため、「時間的な距離」は同じであると言えよう。またそのような制作方法ゆえ、写真には家族やその日常は写されてはおらず、また無限遠の雄大な風景もない。すべてがその中間の、プライベートな距離を超えた、しかし遠くまで行かないある帯域において他者の眼差しを捉えようとしている。加えて、このシリーズがいわゆる「日常写真」と異なるのは、それが「いま・ここ」の記録性を一義的に目指したものではなく、他者の現れをそれぞれの単独性、特異性において、「よくわからないもの」としてそのまま受け止めようとしているからである。瞬間を捉えることに長けた写真というメディアを使いつつも、過去と未来の両方に自然と意識が向かう喜多村の態度は、つねに来たるべきものとしての亡霊に対して開かれている。生き延びとしての生とは、このように自らを害するかもしれない他者を内部に受け入れることでようやく成立する、実にスリリングなものなのである。
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1 ジャック・デリダ『生きることを学ぶ、終に』鵜飼哲訳、みすず書房、2005年、25頁。
(当展キュレーター 小池浩央)
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[プロフィール]
喜多村 みか / きたむら・みか
1982 福岡県糸島市生まれ
2005 東京工芸大学 芸術学部 写真学科 卒業
2008 東京工芸大学 大学院 芸術学研究科 メディアアート専攻写真領域 修了
主な個展
2020 「TOPOS」PORT ART & DESIGN TSUYAMA(岡山)LIBRIS KOBACO(福岡)
2019 「TOPOS」Alt_Medium(東京)
2017 「meta」Alt_Medium(東京)
2014 「DEEP POOL GUIDE」百年(東京)
2013 「Einmal ist Keinmal / my small fib」テルメギャラリー(東京) / ブックスキューブリック(福岡)/ prinz(京都)
2005 「Einmal ist Keinmal」新宿・大阪ニコンサロン (東京・大阪)
グループ展
2023 「UKIHA DENKEN ART MONTH」みなも(碓井邸102・堀江邸)/ 鏡田屋敷(福岡)
2022 「居場所について」OVERGROUND(福岡)
2020 「ENCOUNTERS」AMB Tokyo(東京)
2019 「ふたりとふたり」THE FAN CLUB(倉谷卓・山崎雄策 × 喜多村みか・渡邊有紀 / 企画協力:菊田美樹子)Kanzan Gallery(東京)
2019 「VOCA2019 現代美術の展望 - 新しい平面の作家たち」山峰潤也氏(水戸芸術館現代アートセンターキュレーター)推薦, 上野の森美術館(東京)
2018 「あなた/わたし」塩竈フォトフェスティバル2018, 亀井邸(宮城)
2018 「LINK TO LIFE - 茶のある風景 -」無印良品有楽町店内, ATELIER MUJI(東京)
2015 「New Japanese Photography」DOOMED GALLERY, ロンドン, イギリス
2014 「Nature in Tokyo」第2回 KYOTOGRAPHIE, le Monde M le magazine企画, 弘道館(京都)
2013 「削ぎ落とす ~Araki Shin Exhibition」アノニムギャラリー(長野)
2011 「The Color of Future~たぐりよせるまなざし~」ターナーギャラリー(東京)
2011 「老人と海」曽根崎アキノリ+喜多村みか, 新宿プロムナードギャラリー(東京)
2011 「aspect」赤羽佑樹+喜多村みか, STUDIO annex(東京)
2010 「TWO SIGHTS PAST」ギャラリーアットラムフロム(東京)
2010 「コミュニケーション展」明るい部屋(東京)
2010 「SNAPS」リコーフォトギャラリーRING CUBE(東京)
2009 「Editors’Choice」推薦人:音楽と人(株式会社USEN)リコーフォトギャラリー RING CUBE(東京)
2008 「TWO SIGHTS PAST」LUMEN GALLERY(ブダペスト, ハンガリー)
2008 「Helsinki Biennale 2008」Greetings from Thingland(ヘルシンキ, フィンランド)
2006 「TWO SIGHTS PAST/キャノン写真新世紀」東京都写真美術館(東京ほか)
主な受賞
2019 VOCA2019 大原美術館賞
2006 キャノン写真新世紀 優秀賞(飯沢耕太郎 選)喜多村みか+渡邊有紀「TWO SIGHTS PAST」
2005 ニコンJuna21
パブリックコレクション
大原美術館(岡山県倉敷市)
作品集
2013 写真集『Einmal ist Keinmal』/ 帯・序文:飯沢 耕太郎 / 出版:Therme Books
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Kanzan Curatorial Exchange「生き延び」
外部に開かれた生としての生き延びについて考える展覧会シリーズ。
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