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Kanzan Curatorial Exchange「風景 」vol.2
「離合/集散」
若山 忠毅
キュレーター:菊田樹子
協力:株式会社 西村カメラ
主催:Kanzan gallery
2020年7月10日[金]-31日[金]
[火曜-土曜]12:00-19:30
[日曜]12:00-17:00
月曜定休/入場無料
GALLERY TALK|7月25日[土]17:00-
鷹野隆大(写真家)× 若山忠毅(写真家)
定員15名/要予約
*新型コロナウイルス感染予防対策として、イベント当日17:00からは場内への入室を15名までとさせていただきます。
何卒ご理解ご了承のほどよろしくお願いいたします。
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[ステートメント]
「三里塚」は、80年生まれの自分にとっても「闘争の場」として焼きついていた。5年前、現在のあり様をみておきたいと思い立ち訪れてみた。空港建設から約半世紀が経ち、農民たちと機動隊がぶつかり合った痕跡は残っているのだろうか。実際にこの目で確かめてみたかったのだが、想定していた期待が単なる感傷であったことに気づくのは、そう遅くはなかった。
ここでは、未だに風景が変貌し続けている。公私の場所を問わず、宅地や雑木林は空港の敷地、駐車場や保税倉庫へ、さらに駐車場が空港の敷地へと変化を繰り返している。間断なく更新されるその姿は、過去を懐かしむことも、華やかな未来を望むことも押さえつけてしまうかのようだ。
空を見上げれば、飛行機が離着陸をくり返している。特定のなにかを掴むでもなく、空港の周りを往来し撮影をする。闘争の場やそれ以前にあったであろう風景を重ねてみたり、ときにはそれを切り離してみる。すると過去のイメージを神話のようにみていた感覚が少しずつ後退していくかわりに、この場所で起きた出来事ゆえに、人々が見過ごしてしまうような宙吊りの風景が浮かび上がってくる。御料牧場、開拓部落から闘争の場、そして空港へという複雑な関係の間にぶら下がり、いまの三里塚はなにかを保留したまま漂い続けている。 (若山忠毅)
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2009年から本格的に写真をはじめた若山忠毅は、郊外や旅先で遭遇した「幹線道路沿いの建築物や草木が繁茂する様子」といった、取るに足らない、奥深さのないものとして無視されがちな風景に一貫して目を向けてきた。自然と人間のどちらの営みとも距離のある「縁」や「間」のような場所、その土地の固有性が見えにくい「宙吊り」のような場所は、郊外で生まれ育ち「日本=郷土という愛着が持てない」若山にとって、シンパシーを感じながらもどう理解してよいかはわからないという矛盾がつきまとう場所なのである。
若山は東京近郊で制作を続ける中で、開港から40年が経っても未完の成田空港、そして三里塚闘争で知られるその周辺地域の現在に興味を持ち始める。しかし、本人のステートメントにあるように、訪れてみると闘争の痕跡はわずかに残るのみで、「空を見上げれば飛行機が離着陸をくり返し、過去のイメージを神話のようにみていた感覚は後退していく」。つまりここも、歴史と現実の間に浮かぶいわば「宙吊りの場所」であり、むしろ周知の過去を背負うがゆえの撮りにくさを抱えながらも5年にわたり通い続けて完成させたのが、ここに展示している「離合/集散」である。
今回Kanzan galleryで展開しているシリーズ展のテーマを「風景」とした起点は、実はこの作品だった。「風景論」が活発にたたかわされていた1970年前後から約50 年を経て、写真家たちは「風景」をどのようにとらえているのかを考え始めた頃、50枚ほどの写真からなるポートフォリオを若山から渡された。そこに写し出された「壊死する風景」 の現在は、いまあらためて「風景のリテラシー」を問うているようだった。
そこで起きた出来事や歴史から風景を読み解くことには、リスクを伴う。たとえば、『ここである若者が殺された』と聞けば、風景は突然不穏な雰囲気を漂わせはじめ、もう“そのように”しか見えなくなってしまうものだ。三里塚であれば、農民と機動隊が激しくぶつかりあう様を「自動的」に連想する人も多いだろう。そもそも掴みどころのない風景というものは、歴史や意味があると思って眺めた方が理解した気になれるのだ。しかし若山は、その容易さを手放し、現在の風景を繰り返し見つめて写真にすることで、その場所と自分や鑑賞者を何とかしてつなぎ合わせようとする。当時の古い写真や新聞の切り抜きを並置して、鑑賞者をわかった気にさせる過剰な親切心を放棄し、自身の感情や美意識を軸にするのではなく、いくつかの撮影ルールを自らに課しながら空港周辺を撮り続け、作品として発表する。それは、この風景こそ誤読してはならないという若山の意地と、三里塚とこの地に携わった人たちへの礼節のようなものではないかと思う。
私たち鑑賞者にできることはと言えば、若山のとらえてきた「何でもない」風景を自力で読み解いてみることだろう。その経験がもたらしてくれるのは、風景を考え、感じる自由であることに他ならない。2019年の成田空港の航空機発着回数は26万4115回(日平均724回) であり、1978年の開港以来、最多であったという。写真から飛行機の轟音は聞こえない。しかし、想像することはできるはずである。平均すると日に724回、1時間に30回聞こえるその音を。
最後に展示について少し触れたい。複数の写真を組みで見せる効果は大きくない、引いて撮影している風景の写真なのである程度の大きさで見せたいという2点から構成を考えはじめた。しかし同時に、広範囲にわたる空港周辺を長期間にわたり撮影しており、そこに見出した一貫した特性は量で見てもらった方が説得力を増すという思いがあったため、プリントとは異なる質ではあるがブック形式の印刷物も展示に加えた。(当展キュレーター 菊田樹子)
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1.『壊死する風景―三里塚農民の生とことばー』芝山町、成田市東峰、南三里塚、三里塚出身・在住の当時20代の青年たちの座談会の記録。
1970年11月にのら社より発行された。
2. 成田国際空港株式会社プレスリリース「空港運用状況(2019年)」より
*当企画を考え進める重要な資料の1つとして、アニメーション作家である相原信洋氏の映像作品を参考にさせていただいた。
相原氏の作品を含む論考については、後日発行の冊子に掲載予定。提供:NPO法人戦後映像芸術アーカイブ
[プロフィール]
若山忠毅
1980 生まれ
2011年 早稲田大学芸術学校空間映像科卒業
2012年10月〜2014年 TAP Galleryメンバー
個展
2017 「パスとエッジ」 TAP Gallery(東京)
2015 「余暇、観光、そして疎ら」 蒼穹舎(東京)
2014 「余暇、観光、そして疎ら」TAP Gallery(東京)
2013 「外環」TAP Gallery(東京)
2013 「世間は美しいものであふれている」TAP Gallery(東京)
2013 「縁」 TAP Gallery(東京)
2013 「Urbansprawl」TAP Gallery(東京)
グループ展
2016 「リフレクション」 表参道画廊(東京)
2014 「Group Exhibition Vol. 2 HAKKA」 BankART(神奈川)
2014 「第10回写真 1_WALL」ガーディアン・ガーデン(東京)
Kanzan Curatorial Exchange「風景」vol.2
全4回の展示を通して、風景と写真について考える展覧会シリーズ。
第一回として、2020年3月に榎本千賀子「人為のかたち 福島県大沼郡金山町」を開催。
一般財団法人日本写真アート協会 Kanzan gallery 東京都千代田区東神田1-3-4 KTビル2F
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