Kanzan Curatorial Exchange「写真/空間」vol.2
「配 置」
新居上実
2017年6月8日(木)-7月9日(日)
OPENING RECEPTION: 6月10日(土)17:00-
キュレーター:菊田樹子
出力協力:PRESS ROOM
新居上実 Takamitsu Nii
1987年岐阜県生まれ、東京在住。
第11回写真「1_WALL」ファイナリスト、第10回写真「1_WALL」奨励賞(鷹野隆大選)などを受賞。主な展覧会に、「フィットネス. Ftness show」3331Arts Chiyoda(東京/2016年)、Space on a Plane」東塔堂(東京/2015年)。
「写真/空間」
全3回の展示を通して、写真の内と外に立ち現れる空間について考える展覧会シリーズ。
キュレーター・インタビュー 06:インディペンデント・キュレーター 菊田樹子氏
Kanzan Curatorial Exchange「写真/空間」 vol. 2
Kanzan Galleryでは、気鋭の写真家、新居上実(にい たかみつ)の初めてとなる本格的な個展を開催します。
「新居さんの作品では、紙片やチラシ、ビニール袋など、それなりに見慣れた『もの』がフレーム内に収まっています。それは明らかな作為によって配置されているとすぐに気づきますが、では、なぜそんな風に置いてあるのか?もの同士の関連は?——だんだんと違和や不思議さを感じ始め、観る者の視覚を揺さぶられます。
外部で起きる偶発性に委ねるストリートスナップとは対極で、作家は何もない空間にものとものを配置し、それをフレームという長方形で包囲することで、ある空間を立ち上がらせようとしています。一見、ポップ、またはグラフィカルにも見えますが、その奥には、平面にいかに三次元の空間を生み出すかという写真的なテーマが潜んでいるのです」
当展キュレーター 菊田樹子
Kanzan Gallery Curatorial Exchange「写真/空間 vol.2」
「 配 置 」新居上実
紙片やチラシ、ビニール袋、または何であるかを明言できないとしてしても、それなりに見慣れた「物」が写し出されている。「物」であるので感情を読み取ることはできないし、驚くような出来事や物語がそこに展開している訳でもない。しかし、絶妙に配置されたそれらを眺めているうちに、なぜこのように置いてあるのか?ばらばらに見える「物」同士の関連は何なのだろう?広がる違和や疑問と共に、観る者の視覚は次第に揺さぶられる。
通常は作品解説のテキストを書くのだが、今回は展示制作を通して私が知り、考えたことが、作品を見るヒントとして最もふさわしいのではないかと思い至った。まずは、これらの作品が生まれた背景から記したい。新居は、写真を学ぶ過程でストリートスナップにも挑戦したが、「見ている風景が全然変化していないような感覚がありました。歩いても、歩いても、道路があってコンビニがある、ビルがあって車が走っている、というような感じ。外の変化に鈍感だった」と語っている。そして、室内での物撮りから「むしろフレーム内の物がほんの少しでも移動すると、別の光景が現れたように感じる」ことに気づいた。「物」を配置して、液晶モニターで見る、撮る。このプロセスの繰り返しから、新居は目の前の3次元の状況をフレーミングされた2次元で見たときの差異に関心を持ち始める。フィルムカメラでは小さなファインダーで確認するしかなく、しかもそれは純粋な2次元ではないaことを考えると、デジタルカメラで見る・撮るという経験からこそ発見され、続けることができた試みである。
初期の作品では、「物」の色彩と形へと注意が向い、グラフィックの効果を優先したとも取れる被写体も登場する。今回展示している近作は、「物」と光との関係、「物」同士の距離、そして、それらを包囲(フレーミング)することへの意識が強まっていることがわかる。新居の興味の在りかが、より明確になってきたのだろう。カメラは3次元を容易に2次元にする機械であるが、写真はいかに2次元で3次元を表すかを問われる芸術である。新居の作品を見たときの視覚の「揺らぎ」は、ここに起因する。新居は、2または3とではなく、その間(はざま)の「2.5次元」という新たな空間を写真で作り出そうというのだ。新居は「この0.5次元は、物同士の繋がりなどから生まれるもの」だと言う。この10年でエンターテインメントの分野では2.5次元的感覚を取り入れたコンテンツbが次々と生み出されてきた。勿論、新居の扱う「次元」とは別物であるが、つまりは、現代の私たちが既存の住み分け(2次元・3次元、写真・彫刻・絵画)に限界を感じc、それらの間(はざま)にある何かにシンパシーを抱いている現れある。
無意味な「物」、軽やかさ、デジタル、新しい空間、そして、彫刻的・写真的な問いに近づきながらも、そのどちらか一方のみに収まらない——新居作品の特徴は、構造の必然からというより「現代的な(いまっぽい)」感覚が自然に連なって生まれたのだろう。新居のこうした感性には、新たなアウトプットが必要ではないか。そう考えて、この展示を作り始めた。さらに私が気になっていたのは、新居の作品における「写す」と「映す」についてだった。新居の作品を「物を配置する」という自身のパフォーマンスの記録写真と考えれば、ありのままに「写す」である。しかし、単に3次元をそのまま「写し」ても、そこに「2.5次元」は生まれない。空間やマッス、関係性を感じさせる写真にする行為は、「映す」に近い。ライトボックスにはこの「写す」と「映す」の間(あわい)を引き受けてくれることを期待した。また、新居が作り出した「2.5次元の空間」は置換してもその強度を有すると考え、持ち帰り可能な出力という展示にたどり着いた。最後に、企画者としては、構造化・言語化しにくい「現代性(いまっぽさ)」を備えた今まさに進行中の表現を扱うには、展示で「形」を与えることが一つの方法であるという思いが背景にあった。それがこうしたテキストとなった理由でもある。展示作業中にも新作が続々と試行された。今回の展示は、その先とそう遠くないところにあるように、今は感じている。
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a大判カメラ、ポラロイドであれば可能かもしれないが、感材などの大きな壁がある。
bテニスの王子様、22/7など。
c少し上の世代ではあるが、美術家の金氏徹平も2009年1月27日CINRA.Netのインタビューで「2次元と3次元の間で動き続けるものを作ろうと心がけています」と語っている。
(当展キュレーター 菊田樹子)
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Kanzan Galleryでは、気鋭の写真家、新居上実(にい たかみつ)の初めてとなる本格的な個展を開催します。
「新居さんの作品では、紙片やチラシ、ビニール袋など、それなりに見慣れた『もの』がフレーム内に収まっています。それは明らかな作為によって配置されているとすぐに気づきますが、では、なぜそんな風に置いてあるのか?もの同士の関連は?——だんだんと違和や不思議さを感じ始め、観る者の視覚を揺さぶられます。
外部で起きる偶発性に委ねるストリートスナップとは対極で、作家は何もない空間にものとものを配置し、それをフレームという長方形で包囲することで、ある空間を立ち上がらせようとしています。一見、ポップ、またはグラフィカルにも見えますが、その奥には、平面にいかに三次元の空間を生み出すかという写真的なテーマが潜んでいるのです」
当展キュレーター 菊田樹子
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