Kanzan Gallery 特別展示
THE FAN CLUB EXHIBITION
「ふたりとふたり」
倉谷卓・山崎雄策 × 喜多村みか・渡邊有紀
協力:菊田樹子
主催:Kanzan gallery
2019年4月16日(火)- 5月19日(日)
12:00-19:30/日曜17:00まで/月曜定休/入場無料
このたびKanzan Galleryでは、特別展示として「ふたりとふたり」展を開催します。当展は、写真家の倉谷卓と山崎雄策による「THE FAN CLUB」が、当ギャラリーのキュレーター菊田樹子の協力のもと、同じく写真家である喜多村みかと渡邊有紀を迎えて企画された展覧会です。
【TALK EVENT】
5月11日(土)17:00〜
菊田樹子(キュレーター)× よにん
*トークは、定員20名/ 要予約
ご予約フォーム >>予約 または、TEL. 03-6240-9807
【THE FAN CLUB ステートメント】
本展は、4人展ではなく共作を続ける2組による「ふたり」と「ふたり」の展示です。この企画は、倉谷卓・山崎雄策が共作を開始するにあたって影響を受けた、喜多村みか・渡邊有紀に声をかけるかたちで実現しました。淡々と、そして途切れることなく続いて行く2つの作品の現在地をご高覧ください。
THE FAN CLUB:2016年に2人展を開催した倉谷卓と山崎雄策が、継続した活動を目指し17年に発足したクラブ。方針やメンバーを固定せずに活動している。これまでに、2018 THE FAN CLUB EXHIBITION「目眼んト」/ OGUMAG(東京) 出展作家:倉谷卓 / 山崎雄策、2017 THE FAN CLUB EXHIBITION「わたしは穴を抱きしめていたい」/ CCAAアートプラザ(東京)出展作家:倉谷卓 / ニモ晴海 / 山崎雄策 / Claudio López の展示を行ってきた。
【展示作品について】
『TWO SIGHTS PAST』 喜多村みか+渡邊有紀
大学の同期だった喜多村みかと渡邊有紀が、20歳の頃から定期的にお互いを撮影している作品。それぞれが個人で行っている作家活動とは異なるという位置付けで、2人のライフワークとして現在も制作を続けており、今年で17年目となる。
展示歴
2018「あなた/わたし展」塩竈フォトフェスティバル2018 / 宮城
2011「TWO SIGHTS PAST」GALLERY at lammfromm / 東京
2010「TWO SIGHTS PAST」LUMEN GALLERY/ブダペスト、ハンガリー
2006 キヤノン写真新世紀展「TWO SIGHTS PAST」/東京都写真美術館ほか
『FAN LETTER』 倉谷卓+山崎雄策
月一のペースで自らの「大切な人」を撮影し、そのフィルムに直接切手を貼り倉谷・山崎の間で送り合う永続的なプロジェクトです。これは私生活に密着しているため、そもそも撮影するべき対象がいないときもあります。その場合は各々の裁量にまかせ撮影します。このテーマに沿った写真が"撮れない"という記録も重要なものになっていくと考えています。今回展示するのは開始から1年半の間に往復したFAN LETTERです。
【アーティスト略歴】
喜多村みか
1982 福岡県生まれ
東京工芸大学大学院芸術学研究科メディアアート専攻写真領域修了
2006 写真新世紀優秀賞受賞(渡邊有紀との共作)
2019 VOCA展 大原美術館賞 受賞
渡邊有紀
1982 岡山県生まれ
東京工芸大学芸術学部写真学科卒業
2006 写真新世紀優秀賞受賞 (喜多村みかとの共作)
2009 第1回写真「1_WALL」ファイナリスト
倉谷卓
1984 山形県生まれ
日本写真芸術専門学校卒業
2008 フォトプレミオ特別賞
2011 塩竈フォトフェスティバル写真賞
2013・2014 TOKYO FRONTLINE PHOTO AWARD 審査員賞
山崎雄策
1984 千葉県生まれ
2014 TOKYO FRONTLINE PHOTO AWARD 準グランプリ
2014 写真新世紀優秀賞
「ふたりとふたり」について
当展は、2組の「ふたり」の写真家による展覧会である。倉谷卓と山崎雄策からなるユニット・THE FAN CLUBが、喜多村みかと渡邊有紀に参加を依頼して実現した。4人展ではなく、あえて「ふたり」と「ふたり」の展示とする所以は、「共作」であることへの強い意識の表れだろう。
共に1984年生まれの倉谷卓と山崎雄策は、写真に対する考えが似ていることから交流を深め、2017年にTHE FAN CLUBを発足し自主企画の展示を行ってきた。はじめての共作がこの「FAN LETTER」であるが、長く制作を続けられる作品を2人でつくりたいという思いがユニット誕生の基底だったと聞けば、いよいよ本領発揮のステージへと踏み出したといえる。
「FAN LETTER」は、それぞれが「大切な人」をテーマに大判カメラで撮影を行い、毎月1枚のネガに切手を直接貼り、郵送する。そして、受け取った相手がプリントとして仕上げるという手法で制作されている。「大切な人を写す」という、お互いに写真家として避けてきた写真の王道にあらためて取り組むことができるのは、共作ならではである一方で、プライベートなイメージをむき出しのまま公共の通信手段で送る、傷つけないことが大前提であるネガを過酷な状態(切手を貼る、配達員の手に触れる)に晒すなど、写真への、また常識とされることへの懐疑が強い2人の作家としての特性がありありと浮かび上がる。現在、1年半にわたって、制作が続けられている。
「TWO SIGNTS PAST」は、喜多村みかと渡邊有紀が、お互いを被写体としたポートレートである。2人が大学で写真を学んでいた2002年頃から不定期に撮影が続けられ、現在で16年が経過した。当初は「共作」にする意志はなく、ある写真賞への応募をきっかけに現在のような2枚1組という形が出来上がった。「あくまでも2人の関係性があって、その次に写真があるということを忘れないようにしよう」という了解のもと、撮影するために会うことはせず、友人として会いたいときに会い、撮りたいときに撮るというスタンスを保ち続けている。編集は2人で行う。それぞれが撮影者・被写体という二役を担いながら、セルフポートレートでもない、自分が写っている写真を選ぶという作業は、なかなか稀有なものだろう。20代初めから30代半ばまでの月日の中で、セレクトの基準も変化してきたという。
2つの作品は、上記のように成り立ちも手法も大きく異なる。「FAN LETTER」は、永続的な制作を前提としており、現時点では語れないこともまだ多いように思う。それでも、これらの共作を前にして思い起こさずにはいられないのが、コミュニケーションツールとしての写真のあり方である。「FAN LETTER」は、「往復書簡」とのことだが、より交換日記に近い親密さのように思える。自分のプライベートな生活や心情を綴った「日記」を他者と共有するという行為の裏には、その他者との関係をより深いものにしたいという欲望が見え隠れする。さらに言えば、「日記」が真実のみを記すものかという議論は、「写真」が真実のみを写すものかという議論に似ている。「つくりもの」と「真実」の間で、倉谷と山崎のコミュニケーションはこれからどのように変化していくのだろう。
「TWO SIGNTS PAST」もまた、憧れの同級生が唯一無二の存在へと変わっていく媒介となったのは、写真だったといえる。彼女たちの学生時代には、若い女性が身近な友人や恋人、自分自身にカメラを向ける手法を盛んに取り入れた、いわゆる「ガーリーフォト」がすでに1つのスタンダードとなっており、同じ学校の友人を撮影することはごく自然な行為だったに違いない。「ガーリーフォト」こそ、コミュニケーションツールとしての写真のありようを浮き彫りにしたのだが、そのスタイルで作家活動を継続している写真家がほとんどいない現状を考えると、何かの限界があったのだと思う。一方で、ひと世代下にあたる喜多村と渡邊は「無理はしない」で、お互いを見つめ、撮り、その写真を見返して編集しながら写真を通したコミュニケーションを繰り返してきた。その意味で、彼女たちは「ガーリーフォト」の軽やかでしぶとい改革者なのである。
このような点で、「ふたり」と「ふたり」の共作は、ラリー・サルタンとマイク・マンデルや、Nerholによる写真を用いた共作などと一線を画す。倉谷と山崎、喜多村と渡邊のゆるやかに続くこの制作活動は、SNSというコミュニケーションツールが定着した現状を鑑みれば、ますますユニークな試みだといえるだろう。そして、それは同時に、不確実で不思議な、この写真というものの正体を確かめようとする、どこか拙く真摯な挑戦でもあるように私には思える。
*ラリー・サルタン (Larry Sultan、1946年生まれ)とマイク・マンデル(Mike mandel、1950年生まれ)の2人のアメリカの写真家は、70-80年代に「Evidence」を始めとする写真によるコンセプチュアルな共作を行った。
Nerhol(ネルホル)は、2007年に活動を開始した、飯田竜太と田中義久の二人からなるアーティストデュオ。アイディアを練る、彫るという分業スタイルで「Misunderstanding Focus」などを制作。
>> Text ふたりとふたりについて
©倉谷卓・山崎雄策
TWO SIGHTS PAST 2018 © 喜多村みか・渡邊有紀
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© 2016 Kanzan gallery