Kanzan Curatorial Exchange 「残存のインタラクション」vol.3

シェレンバウム・ゾエ「mare marginis - 縁の海」

■展覧会データ

会場:Kanzan Gallery(東京都千代田区東神田1-3-4 KTビル2F)

会期:2018年 4月20日(金)- 5月20日(日)

時間:12:00-19:30(日曜 -17:00)

定休:月曜 入場無料

企画:和田信太郎|施工:清水玄|進行:青柳菜摘|広報:玉木晶子|協力:コ本や honkbooks

 

■関連イベント

2018年4月28日(土)17:00- 18:30 里見龍樹(早稲田大学人間科学学術院専任講師/文化人類学、太平洋地域研究)

 

■概要

シェレンバウム・ゾエの個展「mare marginis - 縁の海」を開催します。シェレンバウムは、場所の固有性を見出しかつ表現化される営みを、芸術表現という領野から実践的な問いかけをして来ました。近年は「ゲニウス・ロキ」を主題として掲げ、目に見えない繊細で詩的な相互作用が人々とその環境をいかに形成しているのか、国内外で様々な方法を用いて発表しています。シェレンバウムの出生地はニューカレドニア、育った場所がフランス、現在では日本に拠点をおき、彼女自身のルーツへの眼差しから始まった問題意識は、表現活動のみならず学際的な研究に向けても展開しています。場所と場所のあいだで起こる交錯的経験や、土地に潜在する力(物語)といった、「dépaysement」の経験 -知らない異国の地に踏み入れた時に感じる道に迷った感覚を、3つの国の間に立つことで見出される創発的な混淆とするべく、その議論の開かれた場としても展覧会を企図しました。展覧会場では、ニューカレドニアでの現地調査をもとに、儀式的な土器、船具の帆、伝統的な天測航法(航海術)に関する資料を用いて、映像インスタレーション、映像作品、ドローイングと合わせて構成しています。

 

「残存のインタラクション」

写真や映像といった記録メディアにおける残存とはなにか。イメージ特有の振れ幅が語りを誘発し、語りを困難にもする。「残存とは時間感覚の喪失をもたらす症状にほかならない」(ジョルジュ・ディディ=ユベルマン)。 映画におけるドキュメンタリーの手法を問い直す映像作家(飯岡幸子)、芸術作品や作家性に議論喚起を企てる美術家(原田裕規)、土地や場所が与する相互作用を表出させるアーティスト(シェレンバウム・ゾエ)の全3回の展覧会 (個展)を通して、記録や表現の行為に迫っていきその意味を問い直す。

 

ウヴェア、ニューカレドニア、2017年9月10日

明日の朝、ミシェルが彼のオンボロのフォードでボーヴォワザンに私を迎えに来て、島の北の海岸へ散歩に行くことにした。そこには、私の芸術活動のための岩があると、彼は言った。

 

夜の闇は深く、ヤシやマツのシルエットが、既に3時間ほど前から暗い空へと徐々に消えて行った。空気は暑く、あるジメジメとしたノスタルジーが体を包み、悩ませる。私の部屋から何百メートルも離れ た海岸では、打ち付ける波が砂の一粒一粒を呑み込み、非常に小さいパチパチという音をたてている。激しく宝物を追い求める様に波はホラ貝やタカラ貝を海岸に散乱させ、潮が海岸沿いに泡立った境界線を描く。砂と火山岩の長い大地は、くじけることなく太平洋の泡立った波の永続的な呼吸に耐えている。波はとどろき、その波の下では流れが膨張し、潮によって生まれては死んで行く小さな生き物たちが浮いている。

 

*

「夜の海は私を不安にさせる。

日中にはあらゆるものを飲み込み、海は闇から自律的な生き物として生まれる。海は増水し、とどろき、膨張し、崩れるまで自らを持ち上げる。白く折り返された波は周知の世界の外れを侵食し、そこに留まろうとするが、そのはっきりしない境目はすぐに消え去り、苛立って不明瞭な音に水没させようとすることを諦める。

 

そして私はそのきらめく総体の表面にいる。

 

 ―さあ、意識を取り戻して!

 空気を深く吸って。風はどっちに向いている? 波に触れて。

帆の後ろ側には明るい見通しが、水平線へと差し込む通路があって、君は間違いなく足の裏で何百万ものゆらゆらするその線を踏んでいるんだ。

 

旧来の霊たちが、不安にさせる旗の様に、マストの周りに漂っている。半分閉じた彼らの目は船体の奥にある私の荷物に釘付けにされている。その中には彼らへの贈り物があり、私はそれを明日の朝海岸で壊す予定である。」

 

シェレンバウム・ゾエ

 

 

Zoé Schellenbaum (シェレンバウム・ゾエ)

1990 年、ニューカレドニア・ヌメア生まれ。アーティスト。2013 年、ナント美術学校修士課程修了。 現在東京藝術大学大学院美術研究家油画専攻博士課程、文部科学省国費留学生。過去の展示に「Débords du monde II」Carte Blanche、Mire x Trempolino x APO33、La Fabrique(2017 年、アートセ ンター、ナント市)、「Débords du monde」アート・ミックス・ジャパン 2017(旧小澤家住宅、新潟市)、

「De la Terre à la Lune/ 地球から月へ」Institut Français + Ville de Nantes サポートプログラム(アーティスト・イン・レジデンス、金沢市、2014年)等。

http://www.zoeschellenbaum.com/

 

コ本やhonkbooks こほんや

2016年より活動するメディア・プロダクション。映像や書籍の制作、展覧会やプロジェクトを企画し、自ら運営する本屋(東京都北区王子)を拠点に展開している。青柳菜摘/だつお(アーティスト、1990年生まれ)、清水玄(ブック・ディレクター、1984年生まれ)、和田信太郎(ドキュメント・ディレクター、1984年生まれ)主宰。3人ともに東京藝術大学大学院映像研究科出身。最近の活動に展覧会シリーズ「残存のインタラクション」企画(Kanzan gallery、2017)、「ワーグナー・プロジェクト」メディア・ディレクション(神奈川芸術劇場KAAT、2017)、「新しい洞窟-もうひとつの岐阜おおがきビエンナーレ2017」ディレクション(2017)など。別名thoasa。

■インスタレーション・ビュー

■会場配布物

 

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